わたなべ vs 大いびきの老人
シンガポールで打合せ。
時間を効率よく使おうと、夜中に飛び早朝に現地につき、
現地から夜中に飛び帰国するというフライト。
このパターンに慣れているとはいえ、
最近では到着日に昼寝をしないと頭が回らない状態だ。
空港のラウンジで仮眠をしている時、
EUROPE人らしい初老の男性が最初は静かに寝ていたのだが、
寝ている間にラウンジ全体に聞こえるような大いびきをかき出した。
暫くは皆我慢をしてしていたものの、ほぼ全員の鋭い視線が彼を突き刺す。
一人、一人と誰かが席をたち彼に近付くたびに、彼の元へ行って
「起こすのか?」「次こそは起こすのか?」「いや今度こそは起こすはずだ?」
との期待がラウンジ内の空気の中に巻き起こる。が、
皆、彼に触れるくらいのそばを通りすぎるだけで、
実際はその先にあるフードカウンターでドリンクやフードをとったり、
トイレに行ったりと、いずれも空振りの期待はずれだ。
さあ、ではしょうがない。
そろそろ日本男子の魂を見せたるか、俺の出番やな。
僕もついに立ち上がった。つかつかと彼の横を通り過ぎ、スイーツをとりに歩く。
コーナーにあるストローを持ち、そっと封を開けて取り出し、そのまま彼の耳元へゴー。
ストローで で耳に堂々と息を吹き込んだ。
その瞬間、ラウンジ全体は微笑に包まれたが、彼は起きるどころか姿勢を返し、
そのお陰でいっそう大きないびきをかきだした。
(俺、ただボリューム上げただけやん。)
心のなかでそう叫びながら、急ぎ足でラウンジを後にした。
わたなべ